確率論だけではいつか大やけどを負ってしまうかも

よくきく正規分布ってなんだ

1777年にドイツで生まれた数学者ガウスの名前は、みなさんもどこかで聞いたことがあると思います。彼は数学者であると同時に、天文学者、物理学者であり、近代数学へ多大な貢献をした「数の巨人」です。

彼が導き出した理論や公式はたくさんあるのですが、その中でも、確率、統計に使う「正規分布」は、別名を「ガウス分布」とも呼ぶ、優れものです。正規分布は、ちょうど釣鐘のような曲線を描き、どんな確率分布でも最終的には中心部が一番多くて、端に向かうにつれて段々少なくなっていく形になる、というものです。

簡単に言えば、2個のサイコロを同時に振って、出る目の和を記録していく作業を何回も繰り返すと、最初のうちは、ばらつきがあっても、最終的には、7が一番多く、2や12が少なくなる山型の曲線が描けます。これが正規分布の発想で、統計学の基本となります。受験生を苦しめるテストの偏差値も、これの応用なのは、広く知られている通りです。

この正規分布による考え方は、各種市場予測にも使われ、値動きがより確率の高い方へ導かれると想定して、今後の推移を予測していく訳ですが、みなさんも感じている通り、正規分布に基づく95%の確率であっても、それを裏切る値動きがひたすら続く場面があります。
それが日をまたぐような長期に渡る一方的な値動きだと、「バブル」や「暴落」「円高」「円安」として市場は大騒ぎになるわけです。

異常な状態を排除して考えるって本当に正しいのだろうか

正規分布に基づく確率・統計の観点では、「正確な」計算結果を導くために、異常値を排除することがよくあります。その計算方法もいくつかあるのですが、みなさんもテストやスポーツ記録などで「平均値」を求める際、最高値と最低値を、除外して計算したことがあると思いますが、それも異常値排除の一例です。

市場予測で言えば、暴騰や暴落は異常な状態にあるとみなして、急変時の荒っぽい値動きは、考慮しないということになるのですが、どうも妙な話です。投資家にとっての関心事はいくらになったら利益を確定するか、あるいは、いくらになったら損失を確定するかという点にあるのですから、異常だからという理由で、高値安値を排除するのは、川に堤防を作る時、年間平均降雨量だけを見て設計するようなものです。それでは洪水から街は救えませんよね。

洪水
「平均」は重要ではありますが、それだけは不十分なのです。市場はテストやスポーツ記録とは違います。違う性質のものなのに、うまく正規分布に収めるようにと、修正を施しているという感じはどうしても否めません。社会心理学ではこうした行為を「確証バイアス」と呼びますが、固定観念や先入観にとらわれたままでは、真の姿にはいつまでも出会えませんよね。

フランスの数学者で経済学者でもあるベノワ・マンデルブロ氏(1924-2010)は、その著書「禁断の市場 フラクタルでみるリスクとリターン」の中で、暴騰・暴落のメカニズムを実に念入りに検証しています。IBMのフェローだった彼は、綿花の価格推移から市場における価格は「正規分布」には、収まらないことを発見しました。

この発見を基に彼は、図形の部分と全体が相似形になっているという有名な幾何学の概念「フラクタル」の概念を導き出すのですが、彼の理論によれば、市場の価格はべき乗則で説明できる場合が多いといいます。

市場はベキ乗則で動くのか

べき乗則は、aとbのある関係を対数グラフに書いていくと傾きがマイナスな直線になる関係です。分かりやすくいうと、普通のグラフでは、原点0から、Xは1、2、3、4、5…と増え、Yも1、2、3、4、5…と増えていきますね。

対数グラフでは、この増え方が、原点0からX、Yともに1、10、100、1000…と増えていきます。(形としては傾きが−1のグラフを思い浮かべてもらえばよいと思います)たとえば、地震のマグニチュードが良い例ですが、マグニチュードは1増えるとエネルギーは約32倍、発生頻度は1/10になります。つまり、微弱な地震はしょっちゅう発生するが、大きな地震の発生頻度はごく小さくなります。


ですが、大きな地震がどれくらい大きなものなのかは予測できません。マンデルブロ氏は、さまざまな金融商品の分析を通じ市場の値動きは「正規分布に収まらない」と断言しています。べき乗則で値動きをとらえて見るのに慣れると「ごく稀だが、極めて大きな値動き」が発生するのは、あまり不思議ではなくなってきます。

英語の格言に「When it rains,it pours」というのがあります。訳せば「降れば、どしゃぶり」となりますが、まさに、この格言のように、値動きも一方向に動き出すと、どこまで行くか誰にも見当もつかないのです。

ですので、株価が何日も連騰しているようなバブル的な上昇局面で、正規分布に基づく確率で値動きを予測して、「ここから、さらに上昇が続くのは95%ありえない」と分析したとしても、残り5%だからと切り捨ててしまう「さらなる上昇」が、実はまだまだ続く可能性があるのです。

しかも、べき乗則で言えば、この残り5%の値動きは、投資家を市場から一気に強制退場させるような狂乱的な上昇につながる可能性があります。みなさんは、普段、地震が頻発している日が続いているとして、「ここんところ十分に揺れたから、もうそんなに揺れないだろう」と考えるでしょうか? むしろ「揺れが続いてるから大きいのがくるかもしれない」と警戒するのではないでしょうか?

正規分布に基づく市場へのアプローチは、このような状況で、揺れ始めた地震に対して
「大丈夫大丈夫、すぐ止まる」と判断してしまうようなものです。ですが、その地震は
マグニチュード9の始まりかもしれないのです。

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